もう、自由にしてあげるよ。
初めて見たときは、心臓が破れるかと思った。
思わず壁にへばりついて「なんまいだなんまいだ……」以下、エンドレス。
これじゃ駄目だと思ったのか、次は昼だった。
夜は駄目だったと思ったのか、真っ昼間のお洒落カフェに現れた。
その微妙な外し具合があの人っぽいなぁ。
二度目だったからか、それくらい考える余裕はあった。
それと、あの人が笑ってたから。
邪気のない笑顔でにこにこ。
思わず、目の前にあった、お洒落カフェで出しても問題ないように真っ白なお洒落椀に入った豚の角煮丼を「食べる?」と差し出しそうになったくらいだ。
あの人は、食べることが好きだから。
その視線に気がついたのか、あの人はにこにこ笑いながら首を横に振った。
「どうしたの?」
友人が心配そうに覗き込んできた。
同席者が一点を見つめたまま微動だにしなくなったら、そりゃびっくりするだろう。
分かってはいたが、何も答えられなかった。
何かアクションを起こしたら、消えてしまいそうで。
「ちょっと、どうしたの? 虫でもいた?」
が、流石に飲食店でその発言は訂正しておかないと周りのお客さんにいらん心配をさせることになる。
「ううん。違うの、大丈夫」
予想通り、瞬き一瞬の間にあの人はいなくなってしまった。
私に浮かんだのは失望か。安堵か。
「真っ青な顔でじっとしてるからどうしたのかと思ったよ」
冗談抜きで心配してる友人に、力なく笑いかけ、囁く。
「見ちゃった」
「何を?」
「あの人の、幽霊」
心配する友人をどうにか宥め、帰宅したのは午後8時。
寺までは良かったが、途中でどう方向性を間違えたのか、なぜか火葬場に連れて行かれそうになって焦った。