色々
2009/07/14/Tue
最初は義憤。
次に哀れみ。
だけど、そのどちらも根本にあったのは同情。
「……大丈夫?」
醜いモノには縄を! そう押さえつけられ縄をかけられているのを、やめてと叫びながらただ見ているしかなかった。あれだけの群衆の中、彼を助け出す勇気なんかない。
まるで首吊り台にのせられた囚人のように、縄でぐるぐる巻きになった彼は小さくなっていた。
頭から踵までをすっぽり覆うフードの下で、あたしより一回りくらい小さい身体がびくりと跳ねる。
カタカタと震えるその身体が哀れで、そっと背を撫でた。
途端、手の平に伝わる暖かさ。和らぐ震え。
自分でも驚くくらい優しい気持ちになった。その時はそう思った。
大胆になったあたしは、そっとフードに触れた。
抵抗する彼の弱々しい手をさり気なく押しのけ、フードを取り払う。
月の光に照らされた彼の相貌。
ああ、みんなが醜いと罵り、わずか怯えたように身を逸らしたのが分かるわ。
男にすれば美しい左の顔面。美しいからこそ、残酷に彼の醜さを際立たせてしまう。
彼の顔は右側が、醜く爛れていた。
眼窩は落ち窪み皮膚は紫と青と朱が混ざり合い、眉毛も睫もなく、唇も歪んでいる。
だけど、あたしは醜いなんて思わなかった。
じゃあどう思ったの?
哀れみだと思ったわ。
その時のあたしは本当の自分の感情に気付かなかった。
ただ彼の両頬をそっと慈しむように撫でただけだった。
今日もいじめられたの?
お日様は浴びた?
ご飯は何を食べたの?
いつからかしら。あたしの質問に一所懸命答えようとする彼に、暗い歓喜を覚えるようになったのは。
だいじょうぶだよ。いつものことだから。
ちょっとだけおひさまあびたよ! きもちよかったよ!
ごはんは…えっと、パンを食べたよ。
今日は、君は何をしたの?
あたし? あたしは街の酒場で踊ったわ。聞いて、そこでガラの悪い連中に絡まれそうになったんだけど、お店のマスターがいい人で、ビール瓶を投げて追い払った挙げ句、あたしたちにビールをごちそうしてくれたの。
他にも、お花屋さんで綺麗なガーベラを見つけたわ。もうそんな季節なのね。
貴方は一所懸命聞いてる。
うんうんうなずいて、瞳をきらきらさせて。
でも、知ってる?
暗い影が、その瞳の中にあること。
次に哀れみ。
だけど、そのどちらも根本にあったのは同情。
「……大丈夫?」
醜いモノには縄を! そう押さえつけられ縄をかけられているのを、やめてと叫びながらただ見ているしかなかった。あれだけの群衆の中、彼を助け出す勇気なんかない。
まるで首吊り台にのせられた囚人のように、縄でぐるぐる巻きになった彼は小さくなっていた。
頭から踵までをすっぽり覆うフードの下で、あたしより一回りくらい小さい身体がびくりと跳ねる。
カタカタと震えるその身体が哀れで、そっと背を撫でた。
途端、手の平に伝わる暖かさ。和らぐ震え。
自分でも驚くくらい優しい気持ちになった。その時はそう思った。
大胆になったあたしは、そっとフードに触れた。
抵抗する彼の弱々しい手をさり気なく押しのけ、フードを取り払う。
月の光に照らされた彼の相貌。
ああ、みんなが醜いと罵り、わずか怯えたように身を逸らしたのが分かるわ。
男にすれば美しい左の顔面。美しいからこそ、残酷に彼の醜さを際立たせてしまう。
彼の顔は右側が、醜く爛れていた。
眼窩は落ち窪み皮膚は紫と青と朱が混ざり合い、眉毛も睫もなく、唇も歪んでいる。
だけど、あたしは醜いなんて思わなかった。
じゃあどう思ったの?
哀れみだと思ったわ。
その時のあたしは本当の自分の感情に気付かなかった。
ただ彼の両頬をそっと慈しむように撫でただけだった。
今日もいじめられたの?
お日様は浴びた?
ご飯は何を食べたの?
いつからかしら。あたしの質問に一所懸命答えようとする彼に、暗い歓喜を覚えるようになったのは。
だいじょうぶだよ。いつものことだから。
ちょっとだけおひさまあびたよ! きもちよかったよ!
ごはんは…えっと、パンを食べたよ。
今日は、君は何をしたの?
あたし? あたしは街の酒場で踊ったわ。聞いて、そこでガラの悪い連中に絡まれそうになったんだけど、お店のマスターがいい人で、ビール瓶を投げて追い払った挙げ句、あたしたちにビールをごちそうしてくれたの。
他にも、お花屋さんで綺麗なガーベラを見つけたわ。もうそんな季節なのね。
貴方は一所懸命聞いてる。
うんうんうなずいて、瞳をきらきらさせて。
でも、知ってる?
暗い影が、その瞳の中にあること。
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