ぱっと弾けてきらきら輝いて、一瞬で消えてしまった。
でも、空いっぱいの花火はすごく綺麗だった。
ひぐらしの鳴く夕暮れ、きみと初めてのキスをした。
笑っちゃうくらいに綺麗な状況設定。
暮れかけるオレンジの空、切なく響くひぐらしの声、昼の蒸し暑さが残るアスファルトに吹く涼しくなってきた風とパタパタはためくきみのスカート。
ふ、と話題が途切れて見つめ合った。
心臓がすっごいバクバク言って、頭ん中真っ白で、何かもう無我夢中っていう感じでその瞬間の事は正直、夢じゃないかと思うくらい一瞬だった。
ぱっと顔を上げてみたら、きみもおんなじ顔してたからつい笑っちゃって、二人でずっとくすくす笑いながら坂道を歩いた。
笑っちゃうくらい幼い恋。
笑っちゃいたいくらい綺麗な絵は、今もぼくの引き出しの中にそっと仕舞ってある。
本当はすこし違和感があったんだ。
でも本格的に大変な事になるまで、気がつかなかった。
いつだってそうだ。
綻びは、修復不可能になってから見つかる。
その時点ではどんなに足掻いても無駄だというのに。
きみと花火を見る夢をみた。
次に見たのはモノクロの建物が出てくる夢だった。
目が覚めてから落としたため息は、何個目かな。
きみとキスをした坂道を、転がるように駆ける。
何で人間は息をしなきゃいけないんだ!
息をしたら速く走れないじゃないか!
頼むから、もうこの後走れなくなってもいいから、間に合って!!
心臓がバクバクいって、足が縺れる。
オレンジだった空は、灰色になってきた。
雨が降るのかな。
明日の花火大会はどうなるのかな。
晴れるかな。
きみはどんな浴衣を着るつもりだったんだろう?
今となってはもう分からない。
ああ、雨だ。
笑っちゃうくらい、今のぼくにぴったりな状況設定。
ぽろぽろと空から雨が降る。
明日は晴れるかな。
晴れるといいな。
ヒュッと鋭い破裂音の後に、耳を劈く轟音。
群青色の空一面に広がる、きらきらした火花。
すごく綺麗だよ。
福原美穂「HANABI SKY」
次に哀れみ。
だけど、そのどちらも根本にあったのは同情。
「……大丈夫?」
醜いモノには縄を! そう押さえつけられ縄をかけられているのを、やめてと叫びながらただ見ているしかなかった。あれだけの群衆の中、彼を助け出す勇気なんかない。
まるで首吊り台にのせられた囚人のように、縄でぐるぐる巻きになった彼は小さくなっていた。
頭から踵までをすっぽり覆うフードの下で、あたしより一回りくらい小さい身体がびくりと跳ねる。
カタカタと震えるその身体が哀れで、そっと背を撫でた。
途端、手の平に伝わる暖かさ。和らぐ震え。
自分でも驚くくらい優しい気持ちになった。その時はそう思った。
大胆になったあたしは、そっとフードに触れた。
抵抗する彼の弱々しい手をさり気なく押しのけ、フードを取り払う。
月の光に照らされた彼の相貌。
ああ、みんなが醜いと罵り、わずか怯えたように身を逸らしたのが分かるわ。
男にすれば美しい左の顔面。美しいからこそ、残酷に彼の醜さを際立たせてしまう。
彼の顔は右側が、醜く爛れていた。
眼窩は落ち窪み皮膚は紫と青と朱が混ざり合い、眉毛も睫もなく、唇も歪んでいる。
だけど、あたしは醜いなんて思わなかった。
じゃあどう思ったの?
哀れみだと思ったわ。
その時のあたしは本当の自分の感情に気付かなかった。
ただ彼の両頬をそっと慈しむように撫でただけだった。
今日もいじめられたの?
お日様は浴びた?
ご飯は何を食べたの?
いつからかしら。あたしの質問に一所懸命答えようとする彼に、暗い歓喜を覚えるようになったのは。
だいじょうぶだよ。いつものことだから。
ちょっとだけおひさまあびたよ! きもちよかったよ!
ごはんは…えっと、パンを食べたよ。
今日は、君は何をしたの?
あたし? あたしは街の酒場で踊ったわ。聞いて、そこでガラの悪い連中に絡まれそうになったんだけど、お店のマスターがいい人で、ビール瓶を投げて追い払った挙げ句、あたしたちにビールをごちそうしてくれたの。
他にも、お花屋さんで綺麗なガーベラを見つけたわ。もうそんな季節なのね。
貴方は一所懸命聞いてる。
うんうんうなずいて、瞳をきらきらさせて。
でも、知ってる?
暗い影が、その瞳の中にあること。
弱り受け萌え。
普段なら絶対に負けないような相手に屈せざるを得ない状況の受けにキュンキュンする!
攻めの言葉攻めが生きますね!
「大したことないんだな」
「這いつくばっちゃって、格好悪い」
「今のアンタの姿見たら、あいつら(受けの仲間)は何て言うかな?」
みたいな。年下攻め正義。