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色々
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2010/09/13/Mon

 また体調を崩した。
 無駄な体力使うの禁止令を出され、1週間。暇だ。

 今日は兄弟達は何かと用事があるらしく、家に俺ともう一人だけ残された。
 いっそ一人が気楽だった……。


「おにーちゃん!」
 手を振り、緑の髪の毛をふわふわ靡かせながら笑う。
 妹のそんな仕草に僅かに頬を緩ませる。怖い顔になってしまっていないだろうか?
「どうした、緑」
 問いかけると、目の前にひんやりとしたものが差し出された。
 これは……
「アイス?」
「そう、おにーちゃん暑そうだから」
 確かに、体温が限りなく低い俺には最近の温度はしんどい。
「ありがとう」
 気遣いが嬉しくて、うまく笑えない自分に腹が立つ。
 最近知ったこの歳の離れた妹を、大事に思っているのだけど何故かうまく接することができない。
 炎や雷は楽しそうにやっているのだけど。
 その度に、ちょっと凹んでいた。
 緑も陰からこちらを伺うような感じであまり近づいてこなかったのだが。
 今日は機嫌でもいいのだろうか。



 そんなことをつらつら考えながら、二人でソファに座って貰ったアイスを舐める。
 さっきまで自分の部屋で何かやっていたようだが、何を思って急に。
 まあ、ソーダ味の、アイスというか、所謂アイスキャンディーは久しぶりでそれなりに嬉しかった。
 嬉しいのだけど、甘い物は得意じゃないのでどうしてもちまちま舐める感じになってしまう。
 ふと気付くと、緑がこちらをじっと見ている。
 甘い物が好きな年頃なだけあって、ぺろりと食べ終えてしまった。
 退屈させたか、まずそうに食べてると思われたか。
 年頃の娘を持った父親はきっと常にこのような緊張感を強いられているのだろう。世のお父さん方に敬意。
「ああ、ええと」
 何か言おうとしたが、それより早く緑遮られた。
「おにいちゃん、ゆっくり食べ過ぎて垂れちゃってるよ」
 ちまちま食べていたせいか、淡いブルーのしずくが肘にまでつたってきている。
 普段なら溶けない様に調整しながら食べているのだが、今日は使えないことをすっかり忘れていた。
 慌てて拭く物を探そうとした途端。
「……っ! 緑っ」
 思わず大きな声が出てしまった。
 ああ、緑が弾かれたようにこちらを見る。
「なあに?」
 無垢に首を傾げる姿に知らず頬が熱くなる。
「そんなもの舐めちゃいけません」
 指に滴るしずくを、その、緑が、舐め……。
 ぬるりと白い指を這う赤い舌に、どきりとしてしまった。
 自分より5つも下の妹に……最悪だ。
「じゃあどこならいいの?」
 テンパりすぎて気付いていなかった。
 緑の瞳に潜む、暗い色に。


「緑っ 何して……っ!」
 膝に緑のほっそりした身体が乗り上げ、身体が硬直する。
 無意識に、垂れるアイスからソファを守ろうと左手を上に上げる。肘を伝う冷たさも、頭をクールダウンさせてくれない。
 右手を柔らかくソファに押しつけられ、完全に身動きが取れなくなる。
 いや、冷静に考えればアイスを放り投げれば左手が空くのだが、判断力が著しく低下した頭ではそこまで考えられなかった。
 鎖骨のあたりに柔らかい髪が触れ、ますます焦る。
 肘の先からぽたぽたと水色のしずくが垂れる。
 濡れた腕に触れる、赤い舌。
 猫が舐めるように指から手首、肘へと下が這う。
 そして。
「……っ! やめなさい!」
 呪縛が解けたように、緑の腕を振り払う。
 ズボンのチャックにかかっていた手は行き場を失い、力なく本人の身体の前に。
「どうして?」
「どうしてって……お前今何しようとした」
「ここにもアイスがついてたから」
「……お前……」
 言葉が継げなくなっている俺に、にやりと笑いかけてくる緑。
「嘘だよ。やりたかったのは、おにいちゃんが、雷としてるコト」
 冗談ではなく、息が詰まった。
「な……」
 にんまりと笑う緑は、女の顔をしていた。
「だって、普段は澄ましてるおにーちゃんがあんなコエ出すんでしょ? どんなカオしてるのかみたいなぁ」
 耳に直接囁かれ、怒りにカッと身体が熱くなる。
 唇が近づいてくる。
 そんな体力ないはずなのに、持っているアイスが凍り出す。
 冷静になろうと息を吸った時、パッと緑の身体が離れた。
 次いで、玄関から物音。
「ただいまー」
 噂の渦中の人、雷だった。
「……早かったな」
 声は掠れていなかっただろうか。
「ああ、何か予定が違ったみたいでさ。何でだろうな」
 そう言ってちらりと緑の方をみる。
 視線を追ってみると、緑はびっくりしたような顔をしていた。
「ええ~うそぉ、ごめんなさぁい、間違っちゃったかな?」
「別にいいけど」
「本当にごめんなさぁい」
 しゅんと萎れてみせる緑に、女は怖いなぁ……としみじみ思っていると、雷に左手首を掴まれた。
「うまそうなもん食ってんじゃん」
 これの存在を忘れていた。僅かに凍ったとはいえ、手首から肘までべたべただ。
「やるよ」
 腕を差し出すと、不意に剣呑な雰囲気に。
「そ、あんがと」
 突っ慳貪にそう言いアイスを俺の手から奪い取り、べろりと手の平を舐められた。


 もういやだ、ここの人達……。

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