何よりもいさぎがよくない。
力を使えなかったから負けました。力を使えない相手に勝ちました。
何だか卑怯だ。
残念ながら、今日はちょっと違っていた。
「百合ったらひどいよね~」
「何でよぉー、まなかこそ、笑ってたじゃない!」
髪の毛をぶんぶん振り回しながら嬌声を上げるオンナノコ達。オンナノコは可愛いから好きだけど、今日は気分がのらず曖昧にしか笑えない。
たまにこんな風になる。
意識したくないけど……また氷河調子悪いのかよ。
イライラしながらタバコに手をやると、白い綺麗な指がそっと触れてきた。
「私にも一本ちょうだい?」
にっこり笑う、えーと、なんだっけ?医療事務やってる確か22歳。
タバコをくわえ、目だけで笑い返す。
「ありがとう」
前髪がパッツンだからかな。アーモンド形の瞳が強調されて、笑うと幼く見える。
「外でよっか」
別に下心があって誘ったわけじゃない。まあ0%というわけでもないが、一番大きな理由は周りに煙が広がりやすい席だったからだ。あ、やだやだ。まだあいつの体調気にしてる。
なのに、医療事務は過敏に反応した。
「タバコやったからって? わたしそんなに安い女じゃないんだけど」
戯れ程度のジャブだ。これくらいいつもならむしろ歓迎する範囲だが何かだめだ。のらない。
「じゃあいいよ」
口に出すと、本当にどうでも良くなった。
そのまま帰ってきてみると、ソファーで氷河がうたた寝していた。
いつもの尖った冷気は全く感じられず、ただ人形のような綺麗な顔で眠っている。
こいつがここにいるってことは、まだ雷は帰ってないんだな。
どちらかというと猫みたいな性格のくせに、犬みたいなことしやがって……と思うと無性に苛立った。
目を隠す髪を乱暴にかきあげると、眉を寄せて顔を逸らした。
大嫌いなはずの僕にここまでされて目覚めないのか……。
ほう。
そのまま頭を固定してやると、眉間に皺を寄せたまま苦しそうに息を吐いた。
誘うように開いた唇に、気付けば口づけていた。
「……ッ!?」
あ、流石に起きた。
そのまま舌を絡め、混乱しているうちにと手首を掴みがっちりと体重をかけて、そう簡単には逃げられないようにする。
限りなく体温を低くしているが、それでもひんやり感じる冷たい口内。
必死で逃げる舌を追いかけながら、噛まれるかもと、頭を掠める。テンパってて気が付かないのか。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音の間に聞こえる、「やめ……っ」「放せっ」という掠れた声。
自分の熱い息。
確か、上あごのあたりが弱かったよな。そこら辺に舌を重点的に擦りつける。
「ふぁ……やっ……」
腰に来る甘い声。
煽られ、糸が引くほど激しくしてしまった。
酸欠気味に、潤んだ瞳で睨み付けてくる氷河。こわくねえー。
「…………何してんだ」
「ん? 何が?」
剣呑な雰囲気の氷河をあっさりと躱し、耳をやらしく舐める。
「っやめろ! 雷を怒らせたいのか?」
必死で身を捩る氷河が面白くて、嗜虐心を刺激され、そのまま囁く。
「誰にでも腰振るからって、雷にオシオキされちゃう? でもそれはやらしい身体してる氷河が悪いんでしょ?」
屈辱に顔を歪める氷河を見ながら、わざと嫌味っぽくにやにや笑う。
本当は知ってる。体温が著しく低いから少々のことでは感じない……というか、雷の電撃の刺激か僕の体温の熱いのじゃないと感じないんだって。
そして、一度感じてしまうと本人の意志とは裏腹に甘く溶け出してしまう身体を持てあましてることも。
「本当にやめろ! 雷が帰ってくる!」
かなり必死で言い募るということは、本気で嫌がってるってことか。まああの雷の悋気は僕でも怖いからなぁ。実際にそれを向けられる氷河は堪ったもんじゃないだろうなあ。
ふむ。
燃えてくるじゃないか。
「いいじゃないですかぁ奧さん」
「キモイなんだそれ」
「間男ごっこ♪」
そう言って油断していた氷河の服の中に手を滑り込ませる。
「やめろってば!」