「おっ……俺がそういうことゆって、らいが、満足するならいいけど……」
しゃくりあげながら一生懸命しゃべる姿は庇護欲を掻き立てる。
「でも、おわったら、らいは絶対後悔するでしょ」
どろどろに汚されているのに、絶対に汚れてくれない。
涙でぼろぼろなのに、息も絶え絶えなのに、最後の一線は越えさせてくれない。
墜ちてくれない。
「……何で?」
それを言いたいのはこっちだよ、という目になった氷河にも気づかず。
結局汚いのは俺だけなのかな。ぼんやりそんな事を考えていると、すっと意識が冷えた。
えらい格好になったおとうとにのしかかっている自分。
ちょっと、冗談じゃなく、本気で血の気が引いた。
氷河の、比較的熱くなった息にハンパじゃなく焦る。
「……自分だけ正気に戻るのやめてくれないかな……」
辛そうに眉を寄せた氷河。何故気づいた。
「わ、ちょ、ごめ……」
慌てて身体を起こすと、見ちゃいけないものを見ちゃいそうでわたわたする。
「これ、外してくれたら自分で何とかするから……とりあえず居たたまれないからどいて」
まだ本格的に冷静にはなってなかったようだ。
羞恥に頬を染める氷河をみて、脆くも理性は溶けた。
「だっ、だから、自分でするってば……っ!」
完全に気を抜いてた氷河のものをひょい、と掴むと、本気の抵抗がきた。
「いや、だって俺のせいだし」
「意味がわからん!!!!」
ぎゃーぎゃー喚いていたのに、やわやわ撫でるとぱたっと無言になるのがエロい。
歯を食いしばって無言で耐えてるのがエロい。
……。
「駄目だってば!!」
ご丁寧に脚で蹴ってこようとしたのだが、体力の利はこちらにある。難なく掴むと無理矢理押さえつけた。
馬鹿とかやめろとかその他罵詈雑言が段々上擦っていき、泣き声のようになる。
意外と、躊躇いとかないもんだな。
「やっ、めっ、ほんとにヤバイって……ッ! らい……ッ!」
あ。
口内に広がる、青臭い体液。
ぬるい。
目の前では死にそうな顔をした氷河。
目があった瞬間、氷河の涙腺がついにきれた。
「なん……っ、何、で、もぉわけわかんねぇよ……」
かなり可愛そうになったのでベルトを外すと、白い細い腕にくっきりと型が残ってしまっていて痛々しい。
腕が自由になった途端、両腕で顔を隠してしまった。
何か色々臨界点を越えてしまったらしい。他人事のように考えているが、100%自分のせいだってわかってる。大丈夫。
というか、口内にあるコレはどうしようか。
泣いてる氷河の前を横切り、サイドボードのティッシュを引っ張り出して吐き出す。
それを見たのか、氷河が突っ伏した。声を殺して泣いてる。
どうしよう、本格的に可哀相だ。
「あの……氷河」
そっと背中に手を置くと、過敏に飛び起きた。
泣き腫らした目に怯えが映り、本気で凹む。
「……ご」
「謝ったら怒るよ」
強い口調で遮られた。
どうしよう、俺が泣きそうだ。
「だ、だって……俺、氷河にこんなことして……苛々してたからって、八つ当たりみたいに……」
やば、ちょっと目潤んできた。被害者の前で加害者が泣きそうになるとか最低だ。ほんとに。
「八つ当たりだったの?」
ちょっと半身になってズボンのチャックを上げる氷河に、そのパンツぐちゃぐちゃじゃない? とぼんやり思う。
直視できずに視線を逸らす。
「俺じゃなくて炎でも同じことした?」
声の響きに何かを感じて、目を上げる。
「炎だったらきっともっと上手に雷を慰められたのかも知れないから比較対象にはならないかも知れないけど?」
……。
怒ってる。……のかな?
怒ってるにしては表情に達観したものがあるし、でも声は硬い。というか声が怖い。
だけど、本当にどうなんだ。炎でも同じことしたのか。
あいつはエロいこと大好きだからなあ……。どんなプレイでも結構喜んじゃうしなぁ……。
じゃあ何だ、俺は氷河がこういうこと大嫌いだからあえてこういう手段を取ったのか?
そういえば、兄貴もこういうこと嫌いだ。その兄貴も襲おうとした。未然だけど。
「……どっちでもいいけど」
絶対良くない。その声は絶対良くない。
ふと、氷河の顔を真正面から見てしまった。
もう泣き止んで、ちょっと俯いている。
頬が赤い。
……あれ?
「氷河」
「なに」
拗ねたような横顔。
「怒ってないの?」
「怒ってるというか、わけがわからん」
それは本音だろう。
「気持ち悪かったよな」
そういうと、勢い良く顔を上げ、怒ったように言い放った。
「そんなでも俺は雷が好きだからな!」
言うが早いが、さっさとベッドから飛び降りてバスルームに飛び込んでしまった。
「え……」
一人ぐちゃぐちゃのベッドにのり残され、思わず正座する。
かーっと顔が赤くなるのを自覚した。
どうしよう……。