色々
2012/02/14/Tue
「奥様“しか”見えない貴方は幸せ者だ」
何を。
問いかけたいが、何か、予感のようなものが全力で声を出すことを押しとどめている。
我知らず背中にびっしょり汗をかいている。
顔があげられない。麗人の顔が見られない。
恐ろしい。
「この世の中には、貴方がご存じではない事もたくさんありますよ」
くすくす笑いがどこかから聞こえる。
耳に生暖かい風が触れる。
「お望みとあらば、お見せしますが?」
迂闊にも一瞬目を上げてしまった。
私が最後に見たのは、きちんと正座をしその胸元にほの白い骸骨をかき抱く麗人の姿だった。
次気づいた時には、町医者のところで点滴を受けていた。
道ばたで倒れていたそうで、年を取った医者は「過労だ」と渋い顔をした。
「休んで行きなさい」という言葉に甘え、ただぼんやりとベッドに寝転がる。
黄ばんだカーテンが風もないのにゆらりと揺れる。
思わず動悸が激しくなったが、意に反して妻の姿も、誰の姿も見えなかった。
もうずっと、見えないままだった。
何を。
問いかけたいが、何か、予感のようなものが全力で声を出すことを押しとどめている。
我知らず背中にびっしょり汗をかいている。
顔があげられない。麗人の顔が見られない。
恐ろしい。
「この世の中には、貴方がご存じではない事もたくさんありますよ」
くすくす笑いがどこかから聞こえる。
耳に生暖かい風が触れる。
「お望みとあらば、お見せしますが?」
迂闊にも一瞬目を上げてしまった。
私が最後に見たのは、きちんと正座をしその胸元にほの白い骸骨をかき抱く麗人の姿だった。
次気づいた時には、町医者のところで点滴を受けていた。
道ばたで倒れていたそうで、年を取った医者は「過労だ」と渋い顔をした。
「休んで行きなさい」という言葉に甘え、ただぼんやりとベッドに寝転がる。
黄ばんだカーテンが風もないのにゆらりと揺れる。
思わず動悸が激しくなったが、意に反して妻の姿も、誰の姿も見えなかった。
もうずっと、見えないままだった。
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2012/02/14/Tue
濃い縦縞にモダンな帯が女性らしくもあるのに決して婀娜っぽくはなりすぎていない。
ぼんやりとした行灯に照らされた頬やうなじのラインが綺麗だ。
なのにそれは触れてはいけない神聖なもののような気がしてしまう。
自分の状況を一瞬忘れ、思わず目の前の人に見惚れ苦笑が漏れる。男は単純だ。
「どうなさった?」
綺麗に紅を引いた唇から、得も言われぬ美しい声がこぼれる。
障子にくっきり写った真っ黒の影が、目の前の麗人に合わせて動く。その動きすら艶めかしい。
高すぎず、低すぎず。セクシーな女性の声とも、年若い男の子の声とも聞こえる。
ずっと聞いていたい気もしたが、用件を思い出し胃がずっしりと重くなった。
乾いた唇を無理矢理こじ開け、だらだらと脂汗をかきながら何とか言葉を絞り出す。
「……妻が、見えるのです」
------------------椿-----------------------
「奥様は……」
問いかけるような表情。
「2年前に鬼籍に入りました」
まだ言い足りないのは十分わかる。目の前で人形みたいに綺麗な貌にもありありと疑問が浮かんでいる。
しかしこちらはそれどころではなかった。
妻が、見える。
美しい人の右肩に自分の右手を置き、向こうを向いている。
表情は見えないが、背中から怒りが吹き出しているのを感じる。
腐っても10年連れ添った相手だ。後ろ姿で感情まで読み取れてしまう。
振り向かないでくれ。頼むから、振り向かないでくれ。
我知らず身体がぶるぶる震え出す。
「……今も?」
麗人の声が掠れていない事に勇気づけられ、目は亡き妻に釘付けにはなっているが、小刻みに頷く。
ふう、と息を吐くとちらりと流し目で自分の右側を見つめる。
その位置だと妻の表情が見えてしまうのではないのだろうか。恐ろしくて聞けやしないが。
ぼんやりとした行灯に照らされた頬やうなじのラインが綺麗だ。
なのにそれは触れてはいけない神聖なもののような気がしてしまう。
自分の状況を一瞬忘れ、思わず目の前の人に見惚れ苦笑が漏れる。男は単純だ。
「どうなさった?」
綺麗に紅を引いた唇から、得も言われぬ美しい声がこぼれる。
障子にくっきり写った真っ黒の影が、目の前の麗人に合わせて動く。その動きすら艶めかしい。
高すぎず、低すぎず。セクシーな女性の声とも、年若い男の子の声とも聞こえる。
ずっと聞いていたい気もしたが、用件を思い出し胃がずっしりと重くなった。
乾いた唇を無理矢理こじ開け、だらだらと脂汗をかきながら何とか言葉を絞り出す。
「……妻が、見えるのです」
------------------椿-----------------------
「奥様は……」
問いかけるような表情。
「2年前に鬼籍に入りました」
まだ言い足りないのは十分わかる。目の前で人形みたいに綺麗な貌にもありありと疑問が浮かんでいる。
しかしこちらはそれどころではなかった。
妻が、見える。
美しい人の右肩に自分の右手を置き、向こうを向いている。
表情は見えないが、背中から怒りが吹き出しているのを感じる。
腐っても10年連れ添った相手だ。後ろ姿で感情まで読み取れてしまう。
振り向かないでくれ。頼むから、振り向かないでくれ。
我知らず身体がぶるぶる震え出す。
「……今も?」
麗人の声が掠れていない事に勇気づけられ、目は亡き妻に釘付けにはなっているが、小刻みに頷く。
ふう、と息を吐くとちらりと流し目で自分の右側を見つめる。
その位置だと妻の表情が見えてしまうのではないのだろうか。恐ろしくて聞けやしないが。
2011/07/29/Fri
「……で、どうしたのよ?」
何が悲しくて大嫌いな半陰陽と差し向かいで食事なんかしてるんだ。
話は少しさかのぼる。
「うわ、どうした?」
この飄々とした兄貴の素っ頓狂な声というのはなかなか聞ける物ではない。
唇だけで小さく笑い、そんな自分にまた自嘲が漏れる。
「なにが?」
「ひでえ顔」
仮にも女に向かってその台詞はどうなのであろうか。
「氷河ときょうだい喧嘩した」
“きょうだい”のところで我知らず力が入ったようで一瞬怪訝な顔をしたが、それについては突っ込まれなかった。
「珍しいね」
そっと、まるで生まれたての生き物に触れるように優しく、頬に兄貴の手のひら。
その瞬間、全てが瓦解した。
腫れた頬がひりひりする。いつもなら見せたくないからゴシゴシ擦るけど、痛くてそんなことできない。
ただ目を見開いたまま、涙が溢れるに任せる。声も出ない。出せない。出したらすがりついてしまいそうだから。
今度こそ仰天した兄貴が慌てふためいて何か言っているが、手加減なしに殴られたせいか泣いているせいか耳がぼんやりしてうまく聞き取れない。
肩を押されそのまま兄貴の部屋で座らさる。
その間も涙は流れ続け、目の前は霞みっぱなしだし鼻血混じりの鼻水も出てくるし、擦ろうとしたら止められ気づけばタオルとミルクを持っていた。
タオルで顔を拭くとやっと視界がクリアになった。
目の前にはちょっと困ったような、それでもすごく優しくて甘えてしまいたくなる笑顔の兄貴。
その瞬間、なぜだか分からないけど、言葉が出なくなってしまった。
胸が詰まって、とかではない。
私はやっぱり、大地を、男として好きだったんだな、と急に気づいた。
過去形だ。
好きな男の事、フラれた男に慰めてもらうの?
この人には相談出来ない。
兄貴としてまだ見られない。
ノドに大きな塊があるようで、飲み込むことも吐き出すことも出来ない。
「落ち着いた?」
頷くに留める。
なんだかすごく恥ずかしい。
何が悲しくて大嫌いな半陰陽と差し向かいで食事なんかしてるんだ。
話は少しさかのぼる。
「うわ、どうした?」
この飄々とした兄貴の素っ頓狂な声というのはなかなか聞ける物ではない。
唇だけで小さく笑い、そんな自分にまた自嘲が漏れる。
「なにが?」
「ひでえ顔」
仮にも女に向かってその台詞はどうなのであろうか。
「氷河ときょうだい喧嘩した」
“きょうだい”のところで我知らず力が入ったようで一瞬怪訝な顔をしたが、それについては突っ込まれなかった。
「珍しいね」
そっと、まるで生まれたての生き物に触れるように優しく、頬に兄貴の手のひら。
その瞬間、全てが瓦解した。
腫れた頬がひりひりする。いつもなら見せたくないからゴシゴシ擦るけど、痛くてそんなことできない。
ただ目を見開いたまま、涙が溢れるに任せる。声も出ない。出せない。出したらすがりついてしまいそうだから。
今度こそ仰天した兄貴が慌てふためいて何か言っているが、手加減なしに殴られたせいか泣いているせいか耳がぼんやりしてうまく聞き取れない。
肩を押されそのまま兄貴の部屋で座らさる。
その間も涙は流れ続け、目の前は霞みっぱなしだし鼻血混じりの鼻水も出てくるし、擦ろうとしたら止められ気づけばタオルとミルクを持っていた。
タオルで顔を拭くとやっと視界がクリアになった。
目の前にはちょっと困ったような、それでもすごく優しくて甘えてしまいたくなる笑顔の兄貴。
その瞬間、なぜだか分からないけど、言葉が出なくなってしまった。
胸が詰まって、とかではない。
私はやっぱり、大地を、男として好きだったんだな、と急に気づいた。
過去形だ。
好きな男の事、フラれた男に慰めてもらうの?
この人には相談出来ない。
兄貴としてまだ見られない。
ノドに大きな塊があるようで、飲み込むことも吐き出すことも出来ない。
「落ち着いた?」
頷くに留める。
なんだかすごく恥ずかしい。
2011/05/23/Mon
「嫌だ! 何で話聞いてくれねぇんだよ!」
悲痛な叫び声も、俺の苛立ちと嗜虐心を刺激するだけだ。
「お願いだから、話、聴いて……ッ!!」
しゃべらせるのが面倒で、抱きしめて背中に当てた掌から電流を流し込む。
目を見開いた氷河。その瞳の中に非難の色が見え、鳥肌が立つくらい怒りを覚える。
こんな思いをさせたあんたに私を非難する資格なんかない。
氷河は身体を痙攣させたが、壁に寄りかかり意地でも座り込もうとはしない。
その意地も腹立たしく、無理矢理身体を反転させ背中を向けさせるとうなじに噛みついた。
のどの奥で殺した悲鳴。固く自分を抱きしめる腕。間接が白くなるほど握りしめられた指。びくりと跳ねた身体。
その全てが腹立たしく、なのに劣情を誘う物で、訳も分からず叫び出したくなる。
「ねえ。発散させてよ。ぐちゃぐちゃになってよ」
耳に直接吹き込む。
いつもなら動きを止めるのに。
「嫌だ」
涙目なのに。
爪が刺さった掌から血が出てるのに。
息も荒いくらい苦しいのに。
何で言うこと聞かないの?
「あ……あああああぁぁあぁっ!」
一番弱いところに電流。
瀕死の魚のように身体を痙攣させ、床に崩れ落ちた。
息が出来ないのか空気を求めてパクパク動く口の中に、いきなり指を3本突っ込む。
噛まれる心配はないと思っていたから、ガリッという音に痛みよりまずは驚いた。
「…………ふうん。そんなに嫌いなんだ、私のこと」
口をついて出た言葉が自分を冷静にさせる。
そうか。氷河は私が嫌いなのか。炎に好きなようにされるくらい。
一瞬萎えかけたが、はだけた服の隙間から覗く白い肌にキスマークが確認できた途端、熱を上げる身体。
勿論、俺がつけたものじゃない。
何だ、俺、寝取られ属性でもあんのか?
まあいいや。
手っ取り早く確認してしまおう。
氷河の顔を見ると、びくっと身体を強ばらせた。
人を傷つけることを極端に怖がる子だ。それとも私はそんな恐ろしい顔でもしていたのか。
後頭部を鷲掴みにして唇を合わせる。最初は触れるだけ。
食いしばる歯をこじ開けたくて、下半身に手を伸ばす。
わずかに開いた隙間から舌を進入させる。
逃げまどう可愛い舌を追いかけ、無理矢理引きずり出して吸ったり噛んだり唾液を絡めたり。
胸の飾りを指先で弄ぶ。後頭部の左手は決して放さない。
ちらりと目をやると、綺麗なブルーの瞳から涙がぽろりと落ちるところだった。
赤く染まった目元が相変わらずエロい。
酸素を求め始めたのでそのまま唇を解放し、そのまま下に降りていく。
その後は、まあ、ご想像の通り。
「……雷」
散々泣き叫んだせいで潰れてしまった可愛い声で呼ばる。
被虐の後が色濃く残る氷河は今にも壊れてしまいそうで、自分が加害者なのに抱きしめて慰めてやりたくなる。
「なに?」
にっこり笑顔で応えるが、ふいと目を逸らされた。その表情に一度は治まった苛立ちが湧き出そうで、慌てて蓋をする。
身体を起こそうとするので、ぱっと手を差し伸べる。
「……ッ!」
「……なに?」
どさっとベッドから転げ落ちる氷河。私の手から咄嗟に逃げようとしたからだとは、一瞬気がつかなかった。
「なんでにげるの?」
本当に理解出来なかった。
身体に巻いたシーツのせいでもがく氷河が可愛い。
どこかを打ったのか痛みに呻く氷河の腕を掴み、起こしてやる。悲鳴が聞こえたが、あちこち打撲や火傷だらけでどこがどう痛いのかまで気を回してられなかった。
と、バシッと音が立つほど激しく振り払われた。
呆気にとられて氷河を見つめると、烈火のような瞳で睨み付けられた。
「もうやめる」
ふと烈火が消え去り、蒼くけぶる瞳から後から後から涙が零れる。
「もう雷とこういう事はしない。普通の、ただの兄弟に戻る」
「……本気で言ってる?」
笑おうとしたが失敗した。
氷河は、目を逸らさない。
「もう雷なんか好きじゃない」
何か、何か言わなきゃ。
悲痛な叫び声も、俺の苛立ちと嗜虐心を刺激するだけだ。
「お願いだから、話、聴いて……ッ!!」
しゃべらせるのが面倒で、抱きしめて背中に当てた掌から電流を流し込む。
目を見開いた氷河。その瞳の中に非難の色が見え、鳥肌が立つくらい怒りを覚える。
こんな思いをさせたあんたに私を非難する資格なんかない。
氷河は身体を痙攣させたが、壁に寄りかかり意地でも座り込もうとはしない。
その意地も腹立たしく、無理矢理身体を反転させ背中を向けさせるとうなじに噛みついた。
のどの奥で殺した悲鳴。固く自分を抱きしめる腕。間接が白くなるほど握りしめられた指。びくりと跳ねた身体。
その全てが腹立たしく、なのに劣情を誘う物で、訳も分からず叫び出したくなる。
「ねえ。発散させてよ。ぐちゃぐちゃになってよ」
耳に直接吹き込む。
いつもなら動きを止めるのに。
「嫌だ」
涙目なのに。
爪が刺さった掌から血が出てるのに。
息も荒いくらい苦しいのに。
何で言うこと聞かないの?
「あ……あああああぁぁあぁっ!」
一番弱いところに電流。
瀕死の魚のように身体を痙攣させ、床に崩れ落ちた。
息が出来ないのか空気を求めてパクパク動く口の中に、いきなり指を3本突っ込む。
噛まれる心配はないと思っていたから、ガリッという音に痛みよりまずは驚いた。
「…………ふうん。そんなに嫌いなんだ、私のこと」
口をついて出た言葉が自分を冷静にさせる。
そうか。氷河は私が嫌いなのか。炎に好きなようにされるくらい。
一瞬萎えかけたが、はだけた服の隙間から覗く白い肌にキスマークが確認できた途端、熱を上げる身体。
勿論、俺がつけたものじゃない。
何だ、俺、寝取られ属性でもあんのか?
まあいいや。
手っ取り早く確認してしまおう。
氷河の顔を見ると、びくっと身体を強ばらせた。
人を傷つけることを極端に怖がる子だ。それとも私はそんな恐ろしい顔でもしていたのか。
後頭部を鷲掴みにして唇を合わせる。最初は触れるだけ。
食いしばる歯をこじ開けたくて、下半身に手を伸ばす。
わずかに開いた隙間から舌を進入させる。
逃げまどう可愛い舌を追いかけ、無理矢理引きずり出して吸ったり噛んだり唾液を絡めたり。
胸の飾りを指先で弄ぶ。後頭部の左手は決して放さない。
ちらりと目をやると、綺麗なブルーの瞳から涙がぽろりと落ちるところだった。
赤く染まった目元が相変わらずエロい。
酸素を求め始めたのでそのまま唇を解放し、そのまま下に降りていく。
その後は、まあ、ご想像の通り。
「……雷」
散々泣き叫んだせいで潰れてしまった可愛い声で呼ばる。
被虐の後が色濃く残る氷河は今にも壊れてしまいそうで、自分が加害者なのに抱きしめて慰めてやりたくなる。
「なに?」
にっこり笑顔で応えるが、ふいと目を逸らされた。その表情に一度は治まった苛立ちが湧き出そうで、慌てて蓋をする。
身体を起こそうとするので、ぱっと手を差し伸べる。
「……ッ!」
「……なに?」
どさっとベッドから転げ落ちる氷河。私の手から咄嗟に逃げようとしたからだとは、一瞬気がつかなかった。
「なんでにげるの?」
本当に理解出来なかった。
身体に巻いたシーツのせいでもがく氷河が可愛い。
どこかを打ったのか痛みに呻く氷河の腕を掴み、起こしてやる。悲鳴が聞こえたが、あちこち打撲や火傷だらけでどこがどう痛いのかまで気を回してられなかった。
と、バシッと音が立つほど激しく振り払われた。
呆気にとられて氷河を見つめると、烈火のような瞳で睨み付けられた。
「もうやめる」
ふと烈火が消え去り、蒼くけぶる瞳から後から後から涙が零れる。
「もう雷とこういう事はしない。普通の、ただの兄弟に戻る」
「……本気で言ってる?」
笑おうとしたが失敗した。
氷河は、目を逸らさない。
「もう雷なんか好きじゃない」
何か、何か言わなきゃ。
2011/05/21/Sat
こつこつと足音が響く。
ヒールのかかとが軽やかに地面を叩く。
リズムを刻む。
知らずに鼻歌が。
元気なひまわりにおはよう。
近所のガキ大将におはよう。
尻尾を忙しく振りながら楽しげにお散歩している犬におはよう。
新聞配達のおにいさんにおはよう。
青い空に向かって両手を広げ、めいっぱい深呼吸。
世界は何て美しい。
私の足音に並ぶ、硬い音。
きちんと磨かれた革靴がお日様を反射して宝石みたいに輝く。
まるでタップダンスでもするみたいにリズムを刻む。
噴水で一休みする小鳥にこんにちは。
汗を拭くサラリーマンにこんにちは。
お仕事中のトラックの運転手さんにこんにちは。
ぴかぴか光る飴に連なるアリの行列にこんにちは。
自動販売機で買ったジュースを一息に飲み干す。
キラキラした水滴を指でなぞるとぬるくて、くすくす笑いが漏れる。
ヒールの音はスニーカーのゴムの音に。
両手いっぱいに抱えた荷物で、タップダンスはもう踊れないね。
踊らなくったって、世界はこんなにも素晴らしい!
撫でさせてくれた塀の上の猫にありがとう。
可愛いねと目を細めたご婦人にありがとう。
あー赤ちゃんだ!と寄って来た小学生の団体にありがとう。
たまらない笑顔で私に手を伸ばしたあなたにありがとう。
あなたを見詰めていると、気付けば涙が出そうなくらい。
生まれてくれてありがとう。
ゆっくりリズムを刻むバレエシューズ。
ゆっくりリズムを刻む革靴。
急ぎ足で駆けていき、また楽しそうに戻ってくるスニーカーの音。
その足音を追いかける、おそろいのスニーカー。
世界は何て美しいのだろう。
世界は何て楽しいことに満ち溢れているのだろう。
宝石のような緑の中で深呼吸をする。
雨が降れば生き物たちは元気になる。
太陽は眩しくて、白い雲は想像力を刺激する。
たくさんの愛おしい物に出会う。
たくさんの別れを知る。
地団駄踏みたいくらい悔しいという感情を知る。
大きな悲劇に無力さを痛感する。
大きな自然の中で足を踏み出す。
大きな世界の中に足を踏み出す。
大きな世界の中で呼吸をする。ステップを踏む。行動する。
世界が私を作る。
私が世界を作る。
世界は何て素晴らしいのだろう。
何て美しいのだろう。
ヒールのかかとが軽やかに地面を叩く。
リズムを刻む。
知らずに鼻歌が。
元気なひまわりにおはよう。
近所のガキ大将におはよう。
尻尾を忙しく振りながら楽しげにお散歩している犬におはよう。
新聞配達のおにいさんにおはよう。
青い空に向かって両手を広げ、めいっぱい深呼吸。
世界は何て美しい。
私の足音に並ぶ、硬い音。
きちんと磨かれた革靴がお日様を反射して宝石みたいに輝く。
まるでタップダンスでもするみたいにリズムを刻む。
噴水で一休みする小鳥にこんにちは。
汗を拭くサラリーマンにこんにちは。
お仕事中のトラックの運転手さんにこんにちは。
ぴかぴか光る飴に連なるアリの行列にこんにちは。
自動販売機で買ったジュースを一息に飲み干す。
キラキラした水滴を指でなぞるとぬるくて、くすくす笑いが漏れる。
ヒールの音はスニーカーのゴムの音に。
両手いっぱいに抱えた荷物で、タップダンスはもう踊れないね。
踊らなくったって、世界はこんなにも素晴らしい!
撫でさせてくれた塀の上の猫にありがとう。
可愛いねと目を細めたご婦人にありがとう。
あー赤ちゃんだ!と寄って来た小学生の団体にありがとう。
たまらない笑顔で私に手を伸ばしたあなたにありがとう。
あなたを見詰めていると、気付けば涙が出そうなくらい。
生まれてくれてありがとう。
ゆっくりリズムを刻むバレエシューズ。
ゆっくりリズムを刻む革靴。
急ぎ足で駆けていき、また楽しそうに戻ってくるスニーカーの音。
その足音を追いかける、おそろいのスニーカー。
世界は何て美しいのだろう。
世界は何て楽しいことに満ち溢れているのだろう。
宝石のような緑の中で深呼吸をする。
雨が降れば生き物たちは元気になる。
太陽は眩しくて、白い雲は想像力を刺激する。
たくさんの愛おしい物に出会う。
たくさんの別れを知る。
地団駄踏みたいくらい悔しいという感情を知る。
大きな悲劇に無力さを痛感する。
大きな自然の中で足を踏み出す。
大きな世界の中に足を踏み出す。
大きな世界の中で呼吸をする。ステップを踏む。行動する。
世界が私を作る。
私が世界を作る。
世界は何て素晴らしいのだろう。
何て美しいのだろう。