「大地兄!」
鋭い氷河の声が警笛のように耳に飛び込んできた。
次の瞬間、目の前に氷の壁が出現する。
ひやりとした空気を感じる間もなく、その壁の後ろから全力で飛び出し目の前の白衣を着た研究者を打ち据えた。
あっけなく気を失って倒れた研究者を目の端で捉えつつ、ぐるっと周りを見渡すと壁際に追い詰められた緑と、研究者の投げた火炎瓶が氷の壁にぶつかって落ちるのが見えた。
割れた火炎瓶の火が絨毯に着火するかと思ったが、ふ、と火は何事もなかったかのように消え去る。にんまり笑う炎ににっこり笑いかけ、絨毯に手を付く。いつもはふわふわしている絨毯が今日は大勢に蹂躙されぺしゃんこだ。
「緑!」
叫ぶと同時に、まっすぐ緑に向かって亀裂の入る絨毯。
緑を追い詰めていた研究者が必死の形相で逃げ出す。その隙に緑は高らかに舞い上がり難を逃れた。
「ありがとう!」
鈴や風鈴を思わせる凛とした声を右頬に受け止めながら、肉薄してくる研究者を真正面から蹴り飛ばす。
さっきの亀裂に引っかかり無様に転がるのを見て、炎が声を上げて笑った。
「ちょっとぉ! 僕も引っかかるかもしれないから、あんまり罠張らないでよ-!?」
炎の軽口を聞き流しつつ、氷河の隣に並ぶ。
ずっと気になっているのだが、顔色が悪い。すでに肩で息をしているし、前髪の生え際にあるふわふわした産毛に汗が光っている。
「氷河は後方へ」
低く言い放つと、弾かれたように氷河が顔を上げた。
目に怒気が瞬いている。
それでも口をぎゅっと結んで何も言わないのは、自分の状況が分かっているからだろう。聡い子だ。
短く息を吐くと、スッと後ろに下がる。
それを待ちかねていたように、前方の扉が音を立てて開き、良く見知った人物が姿を現した。
「……グロウ」
炎の呻くような低い呟きに、緑の小さな悲鳴が重なる。
「何でグロウが……!」
彼は全く感情を見せないまま、無表情に構えた。