忍者ブログ
色々
2025/02/02/Sun
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2010/11/15/Mon

 桜が咲き乱れる。
 見たこともない。
 闇夜に映える鬱蒼とした紅は全てを覆い、あまりの圧迫感に眩暈がする。
 その幹に左手をつき空を仰ぎ見ると、むせ返る花弁で、視界が埋まる。
「ああ」
 ため息のような声が漏れた。
 美し過ぎる桜に畏怖の念を抱く。
 その美しさは、風前の灯火故のもの。
「お前も一緒に逝ってくれるのだな」
 植物にも魂があるのであれば、その魂を燃やして咲き乱れている。
 狂ったような桜に可憐な印象はなく、心をざわめかせる。
 今はそのざわめきすら、遠い。
 手足の指先が痺れた様に冷え切っている。
 呼吸をすると肺がきしむ。
 この身体にもついに、限界がきた。
 400年以上の年月は肉体を徐々に蝕み、ついに魂の容れ物としての機能を果たせなくなった。
 視界がぼやけて歪み、膝と右手にゴツゴツとした感覚。
 体重を支えることも出来なくなった。
 左のこめかみを幹に預け、目を閉じる。
「お兄ちゃん!!」
 風が揺らす木々の音の中から、君の声。
 桜もその狂気を抑え込んだかのように穏やかになる。
 君の名を呼ぼうとするが、乾いた唇が震えるだけだった。
「おにいちゃ……」
 もうほとんど何も写らない瞳を必死で凝らし、君の姿を探す。
 こんな姿、見せたくない。見せたくないのだが、最期に君に会えて良かった。
「ありがとう……ありがとう、本当にありがとう……」
 頬に触れた柔らかさはきっと、君の掌。
 君の涙を拭いたくて左手を幹から放すが、耐えきれずに地に落ちた。
 あまりの情けなさに自虐的な笑みを浮かべたいのだが、きっともう表情も動くまい。
「逝かないで……一人にしないで」
 君は一人じゃない、仲間がいる。俺なんかいなくなっても、きっとあいつらが君の傷を癒してくれる。
 昔はこんな風じゃなかった。
 今は頼っても良い仲間がいる。
 こんなに穏やかな死は初めてだ。
 君と、そして仲間といたのは俺が生きてきた中ではほんの一瞬だが、素晴らしい煌めきを放っていた。
 本当に、良かった。
 筋肉を必死で動かし、笑みをつくる。うまくいくだろうか。
 耳の中に水でも入ったように、君の声が遠ざかる。
 本当に最期か。
 
 なかなかいい人生だったな。
 
 願うのは、君がもうちょっとだけ泣いてくれることだけだ。
 
 さようなら、また君に会えればその時は。

PR
COMMENT
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
TRACKBACK
この記事にトラックバックする:




カレンダー
01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28
フリーエリア
最新CM
最新記事
(04/19)
(04/17)
(04/17)
(03/18)
(02/14)
最新TB
プロフィール
HN:
まゆゆ
性別:
非公開
自己紹介:
 女性向け小説を書きたい!
 
 そういう意味わからん情熱が突っ走った結果のブログです。

 愛はあふれてますが、時たまわかりにくいです。
バーコード
ブログ内検索
最古記事
(08/01)
(08/01)
(08/01)
(08/03)
(08/03)
フリーエリア
Design by Nijiko [SUCUREなオカメインコ]
忍者ブログ [PR]