色々
2010/03/19/Fri
「いよいよさよならだな」
「ぼくは行けないよ」
そう言った、凛とした表情を今でもよく思い出す。
「どうしたの、ダヤン」
僅かに首を傾げる彼に、ううん、とにっこり笑って返す。
彼の淹れてくれた紅茶はいつもとっても美味しい。
ぼくの気分に合わせて配合を変えて、いつもぼくがとびっきり美味しい! と思うような紅茶にしてくれる。
“いつも”のジタンだ。何も変わっちゃいない。
でも、何か違和感がつきまとうんだ。
あっちにこっちにぐるぐる回って虫食い穴に吸い込まれながら、瞳だけは必死に開いて彼の姿を見つめていた。
叩きつける風のせいで目が乾いて涙が出た。
彼の姿がじんわり潤む。
その時に見た彼の笑顔が、目に焼き付いて離れない。
目の前で困ったように微笑むジタンに顔を見られたくなくて、紅茶を冷ますフリをして視線を逃す。
聡いジタンのことだから、ぼくの違和感にも気付いていると思う。でも、何も言わない。
それがまたぼくを困らせる。
ねえ。
いつもみたいに「どうしたんだい、ダヤン」って聞いて。
でも同時に、聞かれることが怖い。
あまり話をせずにジタンの家を辞した。
寂しそうなジタンを見ていられなくて、バレバレの笑顔で手を振って走り出す。
なんでだろう。
なんで今まで通りにいかないんだろう。
ぼくは一体どうしたんだろう?
答えは分かってる。
「ぼくは行けないよ」
そう言った、凛とした表情を今でもよく思い出す。
「どうしたの、ダヤン」
僅かに首を傾げる彼に、ううん、とにっこり笑って返す。
彼の淹れてくれた紅茶はいつもとっても美味しい。
ぼくの気分に合わせて配合を変えて、いつもぼくがとびっきり美味しい! と思うような紅茶にしてくれる。
“いつも”のジタンだ。何も変わっちゃいない。
でも、何か違和感がつきまとうんだ。
あっちにこっちにぐるぐる回って虫食い穴に吸い込まれながら、瞳だけは必死に開いて彼の姿を見つめていた。
叩きつける風のせいで目が乾いて涙が出た。
彼の姿がじんわり潤む。
その時に見た彼の笑顔が、目に焼き付いて離れない。
目の前で困ったように微笑むジタンに顔を見られたくなくて、紅茶を冷ますフリをして視線を逃す。
聡いジタンのことだから、ぼくの違和感にも気付いていると思う。でも、何も言わない。
それがまたぼくを困らせる。
ねえ。
いつもみたいに「どうしたんだい、ダヤン」って聞いて。
でも同時に、聞かれることが怖い。
あまり話をせずにジタンの家を辞した。
寂しそうなジタンを見ていられなくて、バレバレの笑顔で手を振って走り出す。
なんでだろう。
なんで今まで通りにいかないんだろう。
ぼくは一体どうしたんだろう?
答えは分かってる。
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2010/01/09/Sat
彼は、わかりにくい。
いつもへらへら笑ってみんな(主に女の子)に囲まれているかと思えば、その深いブルーの瞳に他人を近づけさせない孤独が見える。
軽くて不真面目かと思いきや、すごく繊細だったりする。
わからない。
その日は暗殺者から要人を守る任務だった。
屋外での講演会の為、あちこちにSeeDが配置された。
彼は狙撃手として屋上に待機、あたしは要人のすぐ近くで護衛中だ。
魔女討伐に参加したSeeDはあたしとアーヴァインだけだけど、他のSeeDもみんな一様にレベルが高い。
これなら大丈夫だと、安心はしていた。
だけど、油断はしていないはずだった。
人垣の後方から悲鳴が広がり、近くにいた数人SeeDが音もなく動く。
と、また別の方向で悲鳴が。
あちこちで悲鳴や怒号が連鎖的に上がる。
今回の講演会は宗教的な意味合いをもつものだった為、反対組織のテロだろう。
あたしはすぐに要人の元に走り、屋内へ。
そのあたしの背中に、聞き慣れた銃声。
少し嫌な予感がした。
狙撃手は、言葉の通り一撃必殺な事が多い。しかしこれは裏を返せば、一度撃ってしまうと場所の特定もされやすく、人数が多いときにはあまり向かない事もおおいのだ。
アーヴァインの事だ、うまく移動するだろう。
そうは信じていても、胸に染みついた嫌な予感はまだ渦巻いている。
きっと、あの銃声が早すぎたからだ。
テロリストを潰すには、ボスを潰してやればいい。
後は統率を失った集団を押さえるだけだ。
彼ならば見えない位置からボスを見抜き、撃ち抜くことなどたやすいだろう。
少しあたしが思ったより早かっただけだ。
その日、ふと戯れにその話をしてみた。
アービンの腕は信じてるのにね、と笑ってみせると、思いの外真剣な顔をしたアーヴァインと目が合った。
「ありがと、セフィ」
「な、なにが?」
「僕のこと心配してくれたんだよね~嬉しいなぁ~」
いつものへらへら笑いではなく、本当に嬉しくて笑ってる顔だ。
ついでにぎゅーっと抱きしめられ、硝煙のニオイがぷんと鼻につく。
低い声が耳元で囁いた。
「前にも言ったけど狙撃手ってね、本当に孤独なんだ。しかも、リスクもすごく大きい。位置を把握されちゃったら、大人数相手だと囲まれる危険性もあるし、見つかったら勿論命はないよね。確実に仇だもん。捕虜になる可能性はゼロに近いし、もしなったとしてもその拷問は一般兵士の比じゃないよ」
それは、知識としては知っていた。
けど今、改めて思う。
この人は、あたしが助けられない場所にいるんだ。
どこにも行かないでね。
お願いだから、どこにも行かないで。
いつもへらへら笑ってみんな(主に女の子)に囲まれているかと思えば、その深いブルーの瞳に他人を近づけさせない孤独が見える。
軽くて不真面目かと思いきや、すごく繊細だったりする。
わからない。
その日は暗殺者から要人を守る任務だった。
屋外での講演会の為、あちこちにSeeDが配置された。
彼は狙撃手として屋上に待機、あたしは要人のすぐ近くで護衛中だ。
魔女討伐に参加したSeeDはあたしとアーヴァインだけだけど、他のSeeDもみんな一様にレベルが高い。
これなら大丈夫だと、安心はしていた。
だけど、油断はしていないはずだった。
人垣の後方から悲鳴が広がり、近くにいた数人SeeDが音もなく動く。
と、また別の方向で悲鳴が。
あちこちで悲鳴や怒号が連鎖的に上がる。
今回の講演会は宗教的な意味合いをもつものだった為、反対組織のテロだろう。
あたしはすぐに要人の元に走り、屋内へ。
そのあたしの背中に、聞き慣れた銃声。
少し嫌な予感がした。
狙撃手は、言葉の通り一撃必殺な事が多い。しかしこれは裏を返せば、一度撃ってしまうと場所の特定もされやすく、人数が多いときにはあまり向かない事もおおいのだ。
アーヴァインの事だ、うまく移動するだろう。
そうは信じていても、胸に染みついた嫌な予感はまだ渦巻いている。
きっと、あの銃声が早すぎたからだ。
テロリストを潰すには、ボスを潰してやればいい。
後は統率を失った集団を押さえるだけだ。
彼ならば見えない位置からボスを見抜き、撃ち抜くことなどたやすいだろう。
少しあたしが思ったより早かっただけだ。
その日、ふと戯れにその話をしてみた。
アービンの腕は信じてるのにね、と笑ってみせると、思いの外真剣な顔をしたアーヴァインと目が合った。
「ありがと、セフィ」
「な、なにが?」
「僕のこと心配してくれたんだよね~嬉しいなぁ~」
いつものへらへら笑いではなく、本当に嬉しくて笑ってる顔だ。
ついでにぎゅーっと抱きしめられ、硝煙のニオイがぷんと鼻につく。
低い声が耳元で囁いた。
「前にも言ったけど狙撃手ってね、本当に孤独なんだ。しかも、リスクもすごく大きい。位置を把握されちゃったら、大人数相手だと囲まれる危険性もあるし、見つかったら勿論命はないよね。確実に仇だもん。捕虜になる可能性はゼロに近いし、もしなったとしてもその拷問は一般兵士の比じゃないよ」
それは、知識としては知っていた。
けど今、改めて思う。
この人は、あたしが助けられない場所にいるんだ。
どこにも行かないでね。
お願いだから、どこにも行かないで。
2009/10/15/Thu
すごい音がして、思わず雑誌を取り落とした。
その空いた手で思わず隣の宮村の服を掴む。
アイスコーナーの前で目をまん丸にしている緑の髪が見えた。
閉めないとアイスが溶ける……などと考えてしまうのは、今の状況からの逃避だろう。
人生で初めて、コンビニ強盗を見た。というか、正直に言おう、現在進行形で遭遇している。
何だこれは。
コンビニなんか襲っても大して金になりはしないだろうに。
刃渡り20センチほどの包丁が鈍く光る。あんな普通の包丁に恐怖心を抱くなんて、小学校の調理実習の時以来だろう。
その包丁を突きつけられた店員は泣きそうに顔を歪めている。アルバイトだろう、眼鏡をかけた顔は自分達とそう離れているとは思えないくらい幼い。
そりゃそうか。
強盗が2人もいたらそりゃ絶望的にもなるか。
残念な事に、店内には俺たち3人と1人の店員しかいない。強盗は2人。二人とも刃物を持って顔を覆面で隠している。
防御力、攻撃力共に負けだ。こりゃ抵抗するのは得策でない。
と、思っていると強盗の1人が歩き出し、店の端にいた井浦の所に向かっていく。
「井……っ!」
思わず声が出たが、店員を脅しつけレジの金を抜かせている奴に「黙れ!」と怒鳴られた。
手のひらにじわりと嫌な汗をかいているのを自覚した。
あいつは今(流石に)静かにしてたし、逆鱗に触れたっていうわけでもないよな?
青い顔をした井浦の「え、何?」という声。
びびりすぎて心臓が止まりそうだったが、ただ俺たちを一カ所に固めたかっただけのようで、ほどなくして包丁に煽られた井浦が転がるようにこちらに合流した時は掛け値なしにほっとした。
「石川~~~~」
困ったように(というか問答無用で困ってるわけだが)眉をハの字にした井浦と、不機嫌そうにふてくされ顔の宮村(お前結構余裕あるな!)と一緒にレジカウンターの前に座らされた。
「財布」
目の前で覆面の男が手を差し出してくる。左手には照明を反射する包丁。
「え~~~俺そんなに持ってないよ~……」
ぶつぶつ言う井浦同様、抵抗する気にはなれず鞄に手を伸ばした瞬間、反対側から無理矢理その鞄を奪われた。
至近距離に金物が見えて、思わずぞっとする。
「変な動きされたら困るだろ」
もう1人が咎めるような声を出した。こっちが主犯格か。
鞄を漁られている最中、嫌な事を思い出した。鞄の中には吉川からもらったクッキーが入ってる。
どうもあの劇物を食べる気になれず言い訳して持ってきたものだが、実は俺は可愛らしくラッピングされたロシアンルーレットが結構嫌ではない。
知らない男の手で無造作に投げ捨てられたクッキーが、音もなく転がる。
それを一瞥もしないマスクの下に見える素顔はどうやらそこそこ若いようだ。
思わずむっとした顔になった俺の視線を追い、覆面男がクッキーを視界に捉えた。
「へえ、えらく可愛いラッピングじゃねぇか」
嫌な感じに背中がざわっとざわめいた。
宮村と井浦も気づいたようで、あ、という顔になった。
「いっそアレ食べてもらった方がいいんじゃない?」
こそっと井浦が囁いてきたので、とりあえず肘でそれなりに強く小突いて黙らせた。「げふっ」と聞こえた気がするが気のせいだ。
「しょーもない事にかかずらうな」
片割れが苛立った声で制止するが、一足遅かったようだ。
乾いた音が響き、ピンクのボックスがひしゃげた。
時が止まったように感じた。
腹の底でふつふつとわけの分からない怒りが渦巻く。今のこの理不尽な状況に対するものであり、吉川の思いを踏みつけられた事に対するものでもある。
「何すんだ!」
思わず、声が出るくらいには腹が立った。
宮村と井浦がぎょっとしてこちらを見る。
「石川っ」
宮村が制止してくるが一度放った矢は戻らない。
ぎらっと包丁が光り、思わず怯んだ。
「何だぁ? 好きな子からもらったとかか?」
甘酸っぺぇーなどと馬鹿笑いをする姿を見て、隣の2人と店員がホッと肩をなで下ろした。
何が起こったのか分からなかった。
気づくと横っ飛びに張り倒されていた。
耳元でがんがん音が響き、血相を変えた井浦がこちらを向いて何か叫んでいるが分からない。
宮村を目で捜すものの、陰になっていて見えない。
殴られた、と気づいたのは頬に鈍い痛みが来てからだ。口の中で鉄の味がする。
殴られたくらいで良かったと思いの外冷静に考えていると、目の前の井浦が主犯格の男に引きずられるのが見えた。
さっきとは比べものにならないくらいの嫌な予感。
「ちょっ、何?」
真っ青になった井浦を一瞥し、男は視線をこちらに向けた。
「おれ、無意味に反抗されんのって嫌いなんだよな。何で抵抗しても無駄だってわかってんのに怒らせるようなことするんだ? 自分が殴られたり刺されたりするくらいじゃわかんないのかな」
普通の声で言っているが、目が普通じゃない。
掴んでいた井浦の襟首を急に離したかと思うと、バランスを取れずたたらを踏んだ彼の腹を前触れなしに蹴り上げた。
息が詰まった。
「何すんだ!!」
咳き込みながら崩れ落ちた姿に心臓が破れそうになる。
「うるせぇ」
バンという重たい音と、井浦の短い悲鳴。
そのまま2,3度立て続けに重い蹴りが彼の背中や腹を襲う。
「あーあ、馬鹿なお友達のせいで痛いよねー可哀相」
呻き声を上げながら蹲る背中に、さらに。
俺はと言えばやめろとか離れろとか叫んで、必死の形相をした宮村に押さえつけられていた。
仲間の強盗もドン引きしているようで、誰もその場から動けないまま一方的な暴力がしばらく続く。
腰、太もも、肩、頭、背中。
ぶつぶつ呟く声と、まるで踏みつけるように脚を振り下ろす鈍い音。
押しつぶされた肺から鋭く漏れる息。
包丁がぎらぎらと光り、まさにあれが悪いのだと言わんばかりに宮村が包丁を睨め付ける。
呻き声すら聞こえなくなった頃、始まった時と同じように突然止まった。
「時間かかりすぎた。逃げよう」
そう言うが早いが、金の入った袋を担ぎ、強盗二人組は外に出てってしまった。
しばらくしてから響くパトカーのサイレンにやっと我に返り、大慌てで井浦に駆け寄った。
井浦好きすぎて自給自足。
え、と、おそるおそる投下……。
え、と、おそるおそる投下……。
すごい音がして、思わず雑誌を取り落とした。
その空いた手で思わず隣の宮村の服を掴む。
アイスコーナーの前で目をまん丸にしている緑の髪が見えた。
閉めないとアイスが溶ける……などと考えてしまうのは、今の状況からの逃避だろう。
人生で初めて、コンビニ強盗を見た。というか、正直に言おう、現在進行形で遭遇している。
何だこれは。
コンビニなんか襲っても大して金になりはしないだろうに。
刃渡り20センチほどの包丁が鈍く光る。あんな普通の包丁に恐怖心を抱くなんて、小学校の調理実習の時以来だろう。
その包丁を突きつけられた店員は泣きそうに顔を歪めている。アルバイトだろう、眼鏡をかけた顔は自分達とそう離れているとは思えないくらい幼い。
そりゃそうか。
強盗が2人もいたらそりゃ絶望的にもなるか。
残念な事に、店内には俺たち3人と1人の店員しかいない。強盗は2人。二人とも刃物を持って顔を覆面で隠している。
防御力、攻撃力共に負けだ。こりゃ抵抗するのは得策でない。
と、思っていると強盗の1人が歩き出し、店の端にいた井浦の所に向かっていく。
「井……っ!」
思わず声が出たが、店員を脅しつけレジの金を抜かせている奴に「黙れ!」と怒鳴られた。
手のひらにじわりと嫌な汗をかいているのを自覚した。
あいつは今(流石に)静かにしてたし、逆鱗に触れたっていうわけでもないよな?
青い顔をした井浦の「え、何?」という声。
びびりすぎて心臓が止まりそうだったが、ただ俺たちを一カ所に固めたかっただけのようで、ほどなくして包丁に煽られた井浦が転がるようにこちらに合流した時は掛け値なしにほっとした。
「石川~~~~」
困ったように(というか問答無用で困ってるわけだが)眉をハの字にした井浦と、不機嫌そうにふてくされ顔の宮村(お前結構余裕あるな!)と一緒にレジカウンターの前に座らされた。
「財布」
目の前で覆面の男が手を差し出してくる。左手には照明を反射する包丁。
「え~~~俺そんなに持ってないよ~……」
ぶつぶつ言う井浦同様、抵抗する気にはなれず鞄に手を伸ばした瞬間、反対側から無理矢理その鞄を奪われた。
至近距離に金物が見えて、思わずぞっとする。
「変な動きされたら困るだろ」
もう1人が咎めるような声を出した。こっちが主犯格か。
鞄を漁られている最中、嫌な事を思い出した。鞄の中には吉川からもらったクッキーが入ってる。
どうもあの劇物を食べる気になれず言い訳して持ってきたものだが、実は俺は可愛らしくラッピングされたロシアンルーレットが結構嫌ではない。
知らない男の手で無造作に投げ捨てられたクッキーが、音もなく転がる。
それを一瞥もしないマスクの下に見える素顔はどうやらそこそこ若いようだ。
思わずむっとした顔になった俺の視線を追い、覆面男がクッキーを視界に捉えた。
「へえ、えらく可愛いラッピングじゃねぇか」
嫌な感じに背中がざわっとざわめいた。
宮村と井浦も気づいたようで、あ、という顔になった。
「いっそアレ食べてもらった方がいいんじゃない?」
こそっと井浦が囁いてきたので、とりあえず肘でそれなりに強く小突いて黙らせた。「げふっ」と聞こえた気がするが気のせいだ。
「しょーもない事にかかずらうな」
片割れが苛立った声で制止するが、一足遅かったようだ。
乾いた音が響き、ピンクのボックスがひしゃげた。
時が止まったように感じた。
腹の底でふつふつとわけの分からない怒りが渦巻く。今のこの理不尽な状況に対するものであり、吉川の思いを踏みつけられた事に対するものでもある。
「何すんだ!」
思わず、声が出るくらいには腹が立った。
宮村と井浦がぎょっとしてこちらを見る。
「石川っ」
宮村が制止してくるが一度放った矢は戻らない。
ぎらっと包丁が光り、思わず怯んだ。
「何だぁ? 好きな子からもらったとかか?」
甘酸っぺぇーなどと馬鹿笑いをする姿を見て、隣の2人と店員がホッと肩をなで下ろした。
何が起こったのか分からなかった。
気づくと横っ飛びに張り倒されていた。
耳元でがんがん音が響き、血相を変えた井浦がこちらを向いて何か叫んでいるが分からない。
宮村を目で捜すものの、陰になっていて見えない。
殴られた、と気づいたのは頬に鈍い痛みが来てからだ。口の中で鉄の味がする。
殴られたくらいで良かったと思いの外冷静に考えていると、目の前の井浦が主犯格の男に引きずられるのが見えた。
さっきとは比べものにならないくらいの嫌な予感。
「ちょっ、何?」
真っ青になった井浦を一瞥し、男は視線をこちらに向けた。
「おれ、無意味に反抗されんのって嫌いなんだよな。何で抵抗しても無駄だってわかってんのに怒らせるようなことするんだ? 自分が殴られたり刺されたりするくらいじゃわかんないのかな」
普通の声で言っているが、目が普通じゃない。
掴んでいた井浦の襟首を急に離したかと思うと、バランスを取れずたたらを踏んだ彼の腹を前触れなしに蹴り上げた。
息が詰まった。
「何すんだ!!」
咳き込みながら崩れ落ちた姿に心臓が破れそうになる。
「うるせぇ」
バンという重たい音と、井浦の短い悲鳴。
そのまま2,3度立て続けに重い蹴りが彼の背中や腹を襲う。
「あーあ、馬鹿なお友達のせいで痛いよねー可哀相」
呻き声を上げながら蹲る背中に、さらに。
俺はと言えばやめろとか離れろとか叫んで、必死の形相をした宮村に押さえつけられていた。
仲間の強盗もドン引きしているようで、誰もその場から動けないまま一方的な暴力がしばらく続く。
腰、太もも、肩、頭、背中。
ぶつぶつ呟く声と、まるで踏みつけるように脚を振り下ろす鈍い音。
押しつぶされた肺から鋭く漏れる息。
包丁がぎらぎらと光り、まさにあれが悪いのだと言わんばかりに宮村が包丁を睨め付ける。
呻き声すら聞こえなくなった頃、始まった時と同じように突然止まった。
「時間かかりすぎた。逃げよう」
そう言うが早いが、金の入った袋を担ぎ、強盗二人組は外に出てってしまった。
しばらくしてから響くパトカーのサイレンにやっと我に返り、大慌てで井浦に駆け寄った。
ぼこり愛。
2009/10/08/Thu
ざっと風が走り、対峙した相手の気配が掴みにくくなる。
戦闘は得意じゃないんだけど。そう呟きながら、魔術の構成を編む。
「コンビネーション2-7-4!」
指を突き出して叫ぶと、白い電気の塊が勢い良く飛び出した。
威力が足りない。
気づくが早いが、咄嗟に横っ飛びに逃げた。
さっきまで自分のいたところが破裂する。
ぞっとしながらも更に魔術を編み上げようとした瞬間、構成が霧散した。
目の前に、死んだはずの魔女が立っていた。
反射的にティッシを見ると、死人のような顔色をしている。
一瞬、理性を失った。
気づくと、魔女の姿をした何かと自分の右腕が燃えていた。痛みはまだ感じない。
長引く戦闘に疲れてもいたのだろう。元々本調子ではない身だし、慣れない攻撃魔法で精神の疲弊もひどかった。
それにしても激昂するのは下手をすれば死を意味する。
腕一本なら、運が良かった方だ。
悲鳴を上げたティッシが消し止めてくれたが、この右腕を完治させるには時間がかかるだろう。
ああもう、うんざりする。
コミクロン萌えです。
おさげと人造人間を出さないようにしたらエセ戦闘に。
難しい……。
2009/09/30/Wed
くすくすくすくす。
夕日に染まる空を背景に佇む小さな神社。
町の人すらその存在をうっかり忘れがちなほどこぢんまりとした神社だが、なかなかに立派な白狐の像が入り口を守っている。
くすくす。
羽をこするような密やかな笑い声が、誰もいない神社に響く。
「今夜もお祭りだね」
「今夜もお祭りだな」
「美味しい物食べられるといいね」
「美味しい物食べられるといいな」
そして俺はそんなのをうっかり目撃してしまったわけだが。
冷や汗をだらだら流しながら固まっていると、ふとそいつらが目を上げた。
ばちっと目が合う。
「おや、お客様だね」
「おや、お客様だな」
「何を怯えているんだい?」
「何に怯えているんだい?」
「それにしても君は美味しそうな色をしているね」
「それにしても君は美味しそうな色をしているな」
「ちょっと舐めてもいいかい?」
「ちょっと囓ってもいいかい?」
嗜虐的な笑顔を浮かべながら、長い舌をちろちろ伸ばす、ヤツら。
綺麗な真っ白の毛皮から覗く赤が凶悪すぎて卒倒しそうになる。
冗談ではなく、足下が歪んだ。ような気がした。
「ふふ、冗談だよ」
「はは、冗談だよ」
「ほんの悪戯だよ?」
「ほんのちょっと本気だけどね?」
今区別がついた。性格悪い方が首に青い玉をかけていて、まだマシな方が赤い首かけを巻いている。
「あ、あの、」
冷や汗を振り払い、必死で言葉を探す。
二対の金褐色の瞳に見据えられ、言葉がのどから出てこなくなる。
「はて、虐めすぎたか」
「ひどい奴よのう、お主は」
「主に言われとうないわ」
「主に言われとうないわ」
「あの!」
放っとくといつまでも続きそうな漫才に痺れを切らし、大きな声が出た。
夕日に染まる空を背景に佇む小さな神社。
町の人すらその存在をうっかり忘れがちなほどこぢんまりとした神社だが、なかなかに立派な白狐の像が入り口を守っている。
くすくす。
羽をこするような密やかな笑い声が、誰もいない神社に響く。
「今夜もお祭りだね」
「今夜もお祭りだな」
「美味しい物食べられるといいね」
「美味しい物食べられるといいな」
そして俺はそんなのをうっかり目撃してしまったわけだが。
冷や汗をだらだら流しながら固まっていると、ふとそいつらが目を上げた。
ばちっと目が合う。
「おや、お客様だね」
「おや、お客様だな」
「何を怯えているんだい?」
「何に怯えているんだい?」
「それにしても君は美味しそうな色をしているね」
「それにしても君は美味しそうな色をしているな」
「ちょっと舐めてもいいかい?」
「ちょっと囓ってもいいかい?」
嗜虐的な笑顔を浮かべながら、長い舌をちろちろ伸ばす、ヤツら。
綺麗な真っ白の毛皮から覗く赤が凶悪すぎて卒倒しそうになる。
冗談ではなく、足下が歪んだ。ような気がした。
「ふふ、冗談だよ」
「はは、冗談だよ」
「ほんの悪戯だよ?」
「ほんのちょっと本気だけどね?」
今区別がついた。性格悪い方が首に青い玉をかけていて、まだマシな方が赤い首かけを巻いている。
「あ、あの、」
冷や汗を振り払い、必死で言葉を探す。
二対の金褐色の瞳に見据えられ、言葉がのどから出てこなくなる。
「はて、虐めすぎたか」
「ひどい奴よのう、お主は」
「主に言われとうないわ」
「主に言われとうないわ」
「あの!」
放っとくといつまでも続きそうな漫才に痺れを切らし、大きな声が出た。